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Lee-Byung-hun addicted

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『タチュルコヤ』 (7)

『タチュルコヤ』 (7)

僕がインターホンを押すといつもどおりに揺が飛び出してきた。
「お帰りなさい」
そういって僕を迎えた揺の顔は明らかに昨晩とは異なって妙に明るい。
いったいどうなっているんだ。
戸惑う僕の頬に揺がそっとキスをした。
「え?」
驚く僕の耳元で「今日は私が手洗ってあげる」
彼女はそっとつぶやいて悪戯っぽく微笑んだ。

洗面所の鏡に二人の姿が映っている。
いつもと違うのは揺が僕を抱きしめていること。
僕は後ろに立った揺に手をゴシゴシ洗われていた。
爪の先から指の間を丁寧に洗われると妙な気分がしてくる。
身体の芯が熱くなってきて・・・思わず喉がなった。
鏡の中の揺がニヤッと微笑んだ。
「何?」
「ん?少しは私の気持ちがわかったのかなと思って」
彼女はそういうと勢いよく水道の蛇口をひねった。




「あ~おなか一杯。今日も美味しかった~」
ベッドの上で上機嫌にそう言って大の字に寝転んだ揺を見て何かある。
僕はそう思った。
「揺・・・昨日の君といい、今日の君といい。何かいつもと違う。いったい何があったの?もしかして・・・事務所に来たことと何か関係があるのかな」
「わ~。ビョンホンssi探偵みたいね。凄い凄い」
揺はそういうとベッドの上に座って身体を揺らした。
「茶化さないで。揺。何があったのか、ちゃんと話して」
ふざけようとする揺の腕を掴んで僕は彼女の目をじっと見つめた。
「怖いな・・・。わかったよ。今日はね、ちゃんと話そうと思ってたから。ちょうどいいわ。私ね。もう我慢しないことにしたの。言いたいことを言って。やりたいことをやるって。決めたの。だからいいたいこと言うね。あなたも覚悟して」
揺はそういうと僕の目をじっと見つめた。
僕は揺の目を見てとても懐かしい気がした。病気になる前の元気な揺の目だ。
「昨日・・事務所に遊びに行って偶然ジウン監督の新作映画の話を耳にしたの。ショックだった・・だって企画書を見ればあなたがやりたいと思っていることは一目瞭然だったのにオファーを受けないってきっと・・・私のせいだって」
「揺・・それは」口を挟もうとする僕の口を彼女は指で塞いだ。
「最後まで聞いて。私ね。あなたには感謝してる。あなたに抱きしめてもらっていると病気の不安とかホンのこととか・・辛いことも忘れられるの。だからずっと一緒にいて欲しいし、ずっと抱きしめていて欲しい。本当は仕事にだって行かないでずっとずっと私だけのあなたでいて欲しい・・・そう思ってる。」
「揺・・・」
「でもね。それじゃいけないと思ってる自分もいて、あなたを縛りつけようとする自分が許せなくて・・・それでも甘えちゃう自分といっつも戦ってた。そんなときに映画の話を聞いて。私は映画俳優のあなたを好きになったわけじゃないけれど今はあなたのすべてが好きだから・・だからね。あなたにはやりたい仕事をして欲しい。あの企画書見て「あ~あなたこれやりたいだろうなぁ~」って胸がキュ~って痛くなったのよ。自分がその障害になっていると思うと悲しくて、情けなくて。
昔の元気な私なら女のことで仕事諦めるような男となんて一緒にいたくないって啖呵切って日本に帰っちゃったと思う。
でも、今の私にはそれができない・・だって、あなたがいなかったら今の私はきっと立っていられないから。
でもね。ビョンホンssi  ・・・私、どうしてもあの映画でスクリーンに映るあなたが見たいの。どうしても見たいの。だから映画のオファー受けてくれない?私大丈夫だから。頑張るから。あなたがいない間一人でちゃんと立って待ってるから・・だからお願いだから・・・」
いつのまにか揺につかまれた腕はしびれるほど痛かった。
彼女の力強い眼差しには涙がいっぱいに溜まっていて今にもあふれ出しそうだった。
僕はたまらなくなって揺を抱きしめる。
「揺・・君はバカだな。そんなことで悩んで。体のことだけ心配して僕に頼りきっていればいいのに。オファーを受ける決心がつかなかったのは僕が不安だったからなのに。もし撮影で長期間留守にしている間に君がいなくなったらと思うと怖くって辛くってどうしても君を手放す気になれなかった。
ずっと抱きしめていないと君が消えてしまいそうで不安で君が腕の中にいる時は安心できるんだ・・・君が必要なのは僕のほうなのに。」
「嫌ね。ビョンホンssi・・私はどこにも行かない。ずっとここにいてあなたが撮影を終えて帰ってくるのをずっと待ってる。病気を治して元気な元の身体になって待ってるから・・・だからね。行っておいで」
揺はそういうとあふれんばかりに微笑んで僕の頭を優しく撫でた。そして僕にそっとキスをした。
「揺・・・君は・・」僕は言葉を忘れた。
何をどういっても彼女への気持ちを言い表せるとは思えなかった。
僕は揺をただ黙って強く抱きしめ・・・彼女に愛を注ぎ込んだ。
「絶対どこにも行かないって約束して」
僕は彼女を愛しながら子供のように何度も繰り返した。
揺はそのたびにやさしく微笑んで僕を包んでくれた。
揺が望むなら・・待っていてくれるなら・・俳優としての僕が欲するままに正直に進もう。
僕はそう心に決めた。

「今日は何だかいつも以上にご機嫌ね」
朝起きて降りていくとオモニが私たちの顔を眺めてそういった。
私たちは顔を見合わせて笑った。
そしてテーブルの下で手を繋ぐ。
彼の指に触れながら昨夜彼に告白したことを思い出す。
手を洗われると身体が熱くなること。
彼は笑って「そんなこと前から知ってるよ」と言った。
信じられない。知ってたなんて。
私は言った。「あなたも・・・感じたでしょ」
彼は答えなかった。
ゲラゲラと笑ってまた私を愛し始めた。
きっと感じたんだ・・・私も無性に可笑しくなってゲラゲラと笑った。

ふと横を見ると彼もクスクスと笑っている。
きっと同じことを思い出しているに違いない。
私は彼の手をそっとつねった。


「さっきからふたりでニヤニヤしちゃって・・・変な人たちね。そうそう。お爺さまのお誕生祝いだけど予定通り1日で大丈夫?」

「え?ああ・・大丈夫。準備も手伝えるよ。ねぇ、揺」
彼は噴出しそうになりながらそう言った。
「ええ。お手伝いします。初めてなので何をしたらよいかわかりませんが・・何でも言ってください。」そういう私に
「頼もしいわ。じゃ、身体に無理がない程度に頑張って手伝ってね」
オモニは嬉しそうに答えた。
「そうだ。オモニ。映画決まったんだ。ジウン監督の作品。4月クランクインで半年ぐらい掛かると思う・・・揺のこと頼んでいいかな。」
彼はご飯をほおばりながら突然そう言った。
「あ、そう・・・もちろん。な~んだ、それで二人ともご機嫌ってわけなのね」
オモニは特に驚くこともなくすべてを悟ったかのように微笑んでそう言った。



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